レッドブルとアップル「直訳CM」の致命的欠陥(「授ける」と「させる」の言語機能の解析)[ことば・表現]
(2012-03-08 10:57:19) by 松永英明


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最近、海外商品について直訳のメッセージで宣伝するCMがいくつか見受けられるが、それを見聞きするたびに気持ち悪さを感じていた。その筆頭がアップルとレッドブルである。

その気持ち悪さについて、日本語学的に分析すると非常に興味深いことがわかる。それはこの二つのCMの言葉が、英語の単語をそのまま日本語に置き換えているがゆえに意味が変わってしまっているということである。特に「授ける」と「させる」という日本語の「機能」に無頓着であることが致命的な欠陥となっている。

前回のブログ記事(木村カエラCMのエセ関西弁が気持ち悪い理由[絵文録ことのは]2012/02/29)に引き続き、今回もCMの言葉を解析してみた。

レッドブルは購入者より目上である

「レッドブル、翼を授ける」というキャッチコピーで知られるレッドブルは、オーストリア企業の商品である。このキャッチコピーは非常にわかりやすいので、最初に解析するとしよう。

もちろんこれは、英語のキャッチコピー/スローガンである "Red Bull gives you wings" の直訳である。この英文自体には特に問題はない。問題は、その日本語訳である。「レッドブル、翼を授ける」とそのまま直訳することによって違和感が生まれている。

日本語を母語とする人であれば、この言葉を聞いて何となく収まりが悪いと感じるだろう。「そのまま訳しているのだからいいじゃないか」という人は、ちょっと日本語に対する敏感さが足りないといえる。

なぜなら、日本語の「授ける」という言葉には、「上の者が下の者に一方的に恩恵を授ける」場合にのみ用いられるという機能があるからだ。英語の "give" には上下関係など想定されていないが、日本語の「授ける」や「与える」には明確に上下関係が存在する。この「機能の違い」は通常ははっきりとは自覚されていなくても、母語話者であれば無意識のうちに使いこなしている。

たとえば、平社員が「社長に重要な地位を授けられましたので、がんばります」というのは違和感のない日本語である。「与える」でも同様で、「今朝、ペットにえさを与えてきました」「植物に水と肥料を与える」「赤ちゃんには母乳を与えています」はもちろん可である。いずれも上から下である(自分は犬や植物や赤ちゃんより上の立場として恩恵を与える立場にあり、社長は平社員より明らかに上である)。しかし、日本人の会社員がもし「社長にペンを授けました」と言って平然としているなら、その人は危なっかしくて外には出せない。少なくともこの言葉を聞いた人は、日本語が不自由な人だなあと思うか、「お前は何様だ、偉そうに」と思うだろう。それが日本語母語話者の当たり前の感覚である。それは「授ける」「与える」という言葉の機能には「上から下へ一方的に」という矢印が必ずついてまわっているからなのである。

「授ける」「賜る」「与える」のは絶対に「下から上」ではない。「対等」でもない(「同僚が弁当を与えてくれました」と発言するなら、その同僚にまったく頭があがらないという背景が想定される。つまり、対等ではありえない)。必ず「上から下」なのだ。

受け手からの視点では「授かる」となる。これも与える側が上、授かる側が下である。「子供を授かった」のも「天から授かった」のであって、逆ではあり得ない。

とすると、「レッドブル、翼を授ける」という言葉には「レッドブル、貴様は何様のつもりだ?」という反感、あるいはレッドブルが強制的・強圧的だという印象を抱いても当然ということになる。

もちろん、「レッドブルが授ける」というのにはもう一つ日本語らしくない要素があって、それはレッドブルという無生物が動作主になるという問題である。無生物は動作の主体になりえないのが日本語だ。もちろん、翻訳口調でそういう表現は現在、たしかに存在する。しかし、それも「翻訳口調」という違和感を伴っての上である。

日本語らしく訳し直せば、まず「レッドブルを飲めば、翼が生えたように感じる」という表現になるだろう。意味的にはこういうことのはずである。ただ、これは回りくどい。レッドブルで翼が生えるというのは、それだけ上昇気分になるとか、元気になるとかいった意味の比喩と考えてよいはずだ。また、レッドブルはエネルギーが足りないときに飲みたくなるだろう。とすれば、同じ意味を伝えるにしても「レッドブルでもうひとっ飛び」「レッドブルならまだ飛べる!」「羽根が生えるよレッドブル」あたりが日本語らしいキャッチフレーズと感じられるはずである(※コピーライターならもう少し気の利いた表現もできるだろうが、ここではひとまず日本語的か否かという観点で見ていただきたい)。

Tags: CM, iPad, アップル, レッドブル, 日本語

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